ガタンゴトンと先ほどより大きな音を立てながら電車は橋を渡る。
橋の下を流れる川に夕日が反射するのを眺めていたら、角刈りの男が歩み寄ってきて僕にこう訊いた。
「生まれた時のへその緒の長さって覚えてます?」
急になんだ、怖すぎる。
角刈りの男は小さなノートとペンを構え僕の返答を待っている。
僕は「え、」と声に出すのが精いっぱいだった。
「どうですか、このくらいですかね?」
と、手で20cmほどの幅をつくりながら角刈りはしゃべり続ける。
いやちょっと待ってくれ。
意味がわからないことはたくさんあるが、ひとまず一つに絞るならば、なぜ他人のへその緒の長さが知りたいんだ。
「覚えてないですかね?」
もちろんだ。覚えてない。
そんなもの覚えてるヤツがどこにいる。
「いや、ちょっとわからないっすね・・・」
僕がそう答えると角刈りは顎に手をあてた。
何をそんなに考えることがある。
これからあなたが何人に尋ねるのかは知らないが、きっと正確に答える人は出てこないぞと、いよいよ声に出してツッコもうとしたとき、
「そうですよね・・・」
と呟いて、角刈りの男は違う車両に歩を進めた。
16歳の放課後の記憶だったかと思う。
夕日がつくるマダラな橋の影が角刈りの背中を彩るのを思い出しながら、僕はまだあの時のアンケート結果を待っている。
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